谷口英治アメリカ ジャズの旅5

谷口英治「アメリカ ジャズの旅」レポート 

| HOME | 谷口英治アメリカ ジャズの旅 5 |

第五日目 3月7日(金)ニューオリンズ 小雨のち曇り


深夜、雷が鳴りスコールみたいな雨が窓を打つ音で一瞬目が覚めた。夢うつつにハリケーンが来たのかと思った。朝は小雨になっていたが真冬のように寒い。ニューオリンズの北側の湖の向こう岸では雪が降っているというのだから、深南部とは言え寒いわけだ。幸いにも今日の前半はバス観光=快適にヒーティングされた車内からの観光なので救われた。

最初の下車ポイントはホリデイイン・ダウンタウン・スーパードーム、巨大クラリネット壁画で有名なホテルだ(完全に僕の趣味コースだね(笑))。



DSCF0273.jpg
立体的に見えるけどペンキで描いてあるんです



















017_1.jpg
「壁画とくらべてみましょう」「なるほど~」運転手のカールさん)

壁画のクラリネットはアルバート式、ふつうのクラリネットはベーム式、ほらちょっと違うでしょ、なんて実際に楽器を出して、レクチャー&ライブもしつつバスは進む。セント・チャールズ・ストリート・カー(路面電車)沿いの高級住宅街やハリケーンで被災した地域も視察。着々と復興が進んでいるようにも見えたが、まだ手つかずの家もあって、窓に描かれた「×」印は遺体が出た家というマーク、その下の数字は遺体の数、というガイドさんの解説を聞いて思わず手を合わせた。

さて僕がこの旅一番の感激を覚えたのはルイ・アームストロング公園前で下車した時だ。残念ながら公園は閉鎖されていたが、ジャズが生まれるそ
の胎動とも言える黒人達のセッションが繰り広げられたコンゴ・スクエが、まさにこの公園内にあるのだ。

またニューオリンズ黄金期のジャズの中心ストーリービル(赤線地帯)もこの付近だと言う。なるほどベイズン・ストリートなど曲名でお馴染みの通りもこのエリアだ。霊魂の存在は信じない僕だが、この時ばかりは背筋がぞくぞくブルブルっときた、のは寒さのせいばかりではないだろう。

フレンチマーケットで下車し旧造幣局内のジャズ博物館を見る予定だったのだが、現在改装中で入れないと言う。冗談じゃない!そんな大事なこ
とホームページ等どこにも出てなかったじゃないか、と猛烈に抗議すると、特別にサッチモの楽器だけ見せてやるからと、無料で館内に入れてくれた(お目当てはそれなのだからかえってラッキーかも)。


DSCF0285.jpg
サッチモ=ルイ・アームストロングのコルネット、こんな角度からの写真は珍しいでしょ。サッチモが滑り止めにマウスピースに掘ったと言われる放射状の溝が、たしかに見える!




DSCF0286.jpg
隣に展示してあったディジー・ガレスピーのトランペット。まだベルが曲がってない時のだね。



この日は寒いせいか、噂に聞くストリートミュージシャンの姿があまり見られなかったが、名物のおやつベニエで有名な「カフェ・デュ・モンド」の前で、黒人のトランペット奏者がバンジョーとデュオで、寒さにめげず渋いジャズを奏でていた。共演を申し出るとすぐに「OKカモン!」と。楽器を出して絡み始めると、「なんだコイツ玄人じゃないか」といった感じで目をまん丸くして、立ち上がってちょっとマジになって吹きはじめた。マジになっても力が抜けているところは、さすがニューオリンズっ子だ。結構いい感じのアンサンブルになってきてカフェ脇の歩道には人だかりが。みんなで<サニーサイド>を歌ったりして・・・ハックさん(このトランペット奏者の名前)が「ジャズは世界共通のコトバだア」と叫ぶ。寒さも吹き飛ぶ心温まるひとときだった。この街は楽器が出来るヤツはウェルカムだというウワサは、どうやら本当のようだ。「ブラザー、明日は2時からやってっからな」と、ハックさん。


046.jpg


051.jpg
ジャズは世界のコトバだよ、ブラザー!


夜、ニューオリンズツアーのハイライトとも言える、エリス・マルサリス(p)カルテット・ライブを聴きにジャズクラブ「スナグ・ハーバー」へ。なにしろスーパースター、ウィントンとブランフォードのお父様だし、氏もコルトレーンとも共演歴を持つ超一流ピアニスト。こんなのが街の一角で聴けちゃうなんて、やっぱニューオリンズは奥が深いね。演奏が始まると・・・もうムチャクチャいい! 決して饒舌なピアノではないが、もうそのサウンドの高貴さがケタ違いだ。しかし何を勘違いしたか、勢いづいた僕はここでも「共演」を申し込んでしまった。実は氏にはある事情で以前私のCDを聴いてもらったこともあり、すんなりOK。2セット目で一曲<コンファメーション>をセッションさせてもらったが、さすがにこれは足ががくがくいうくらい緊張した。これではいけないと徐々にペースをつかみ体勢を立て直し、終盤はなんとかもちこたえ、無事着地! 終演後ご挨拶に行くと「おメェさんは、ダメだな」とは言われずにこやかに迎えてくれたので、まあ、ちゃんと演奏できるというところは見せられたのかな、と。



DSCF0288.jpg
エリス・マルサリスさんと



172.jpg
「ウワァオ、大勢で来てくれたんだね」と、エリスさん


興奮冷めやらぬ一行は、フレンチ・クウォーターへ戻り、開いているレストランを見つけ飛び込み「打ち上げ」(爆笑!なんの打ち上げや) もうテンション上がりっ放しで、フライド・アリゲーターをつまみながらウェイターに日本語=「アリゲーター→ありがとう」を教えたり、今回最年長のご参加者でとても柔和な杉浦さんを「実はマフィヤのこわーい親父さんで、空手の師範でもあり、指一本触れることもできないぜ」と嘘八百並べたり・・・なんだかすっかりニューオリンズの空気に馴染んで、遅くまで心地よく杯を重ねたのだった。



175.jpg
夜霧よー今夜もーアリゲーター・・・フライ。鳥カラよりウマいと思ったぞ